雪組「送られなかった手紙」(日本青年館)
雪組のホープ・壮一帆君の単独初主演作「送られなかった手紙」を観た。
作・演出は太田哲則先生。
太田先生によると、主人公のドミトリーはロシアの文豪プーシキンがモデルだそうだ。
ちょっとネットでプーシキンの評伝も読んでみたが、
太田先生のストーリーは、ほぼプーシキンの人生を踏襲していた。
「羨ましいと思った嫉妬心、云うべきだったという後悔、
人生とは後悔・悔恨を重ねることかもしれません……」
と、太田先生はプログラムに書いているが、
ドミトリーも詩を書くという自己表現はしているものの、
自分の行動に対する自己弁護は一切行っておらず、
その結果、様々に異なる評価が彼に対してなされてしまった…という設定のようだ。
作品では、本当のドミトリーはどのような人間だったのだろうか…という疑問に対する答えと
まわりの人間の彼に対する思いが描かれているが、
何となく、主題に対する太田先生の思いだけが先走りすぎて、
舞台そのものは、消化不良というか、観客には分かり辛くなっているような感じがした。
分かっているのは演出家だけ、「俺の世界に付いてこい!」みたいな…(笑)
まず、ドミトリーがいつの間に「国民的詩人」になったのかがよく分からない。
そして、ドミトリーが数々の浮名を流す場面も、その行動にいまいち説得力に欠ける。
とどめは、セルゲイが甥の名声に「嫉妬を感じていた」。
えええええ?そうだったんですか???全然気が付かなかった~(頭の中が大混乱)
これは、まずいでしょう?太田先生…(苦笑)
それとも、色々伏線があったのに、私が気づかなかっただけ?
のっけからけなしてしまったが、こういう主題はとても興味をそそられるし、
格調があり、薫り高い文芸作品という趣きは、娯楽作品という感じではないが
私はかなり好きだ。
好きなだけに、「なんかもったいないなあ、いいお話になりそうなのに…」と言う感じか。
プーシキンの詩の引用も、1回の観劇ではちょっと分かりにくかったかも。
でもまあ、なかなか好感の持てる作品ではあった。
舞台の作り方としては、ダンス場面・歌の場面も多く、飽きることなく観られた。
もう一度観てみたいなあと思わせるような、余韻の残る作品だったと思う。
次は、出演者&キャラクターについて一言。
◇壮一帆(ドミトリー)
まず、歌の上達ぶりに大いに驚く。一瞬アフレコかと思うほど…(失礼な!)
お衣装の着こなしもどれも美しく、まるでファッションショー状態。
追放された由緒だけは正しい貧乏貴族とは思えないけど、まあタカラヅカだから(笑)
ただ、ちょっとお堅い印象なので、もう少し「たらして」くれると嬉しかったかも♪
でも、センターにいるのが自然に見えるのは、やはり凄い。
◇晴華みどり(マーリヤ)
初ヒロインだが、堂々と美しい立ち姿。
マーリヤは、ドミトリーよりも精神的に大人な感じ。
台詞回しもしっかりしているし、声も良いし、あのミス・ファインと同一人物?と
驚くほど…。大いに期待が持てる娘役さん。
◇一樹千尋(セルゲイ)
とてもいい伯父さんだと思っていたのに、実はドミトリーを妬んでいたというオチが
今ひとつ納得できないのだが、落ち着いた上流社会の人間を上手く表現していた。
◇千賀てる子(ドミトリーの母)
プライドばかりが高く、名門貴族という過去の栄光にしがみ付いているような母親。
時代がかった台詞回しがかえってよかったような感じ。
◇箙かおる(ダンテス少佐)
ドミトリーの人生に関わるかなり重要な役どころで登場。
とにかく軍人らしい身のこなしが素晴らしく、且ついやらしい(笑)
ちょっと年齢不詳だが、本当は幾つ?(笑)
◇天希かおり(ヴォルコンスキー伯爵)
ちー坊のキャラなのか、誠実な男性を好演。
結婚後、マーリヤがドミトリーに走らなくて良かったと思ってしまった(笑)
◇森央かずみ(ソフィア)
今まで雪組のお色気担当(笑)が多かったが、サロンを主宰する貴婦人を好演。
ダンスの人とは思っていたが、あんなにお芝居のうまい人だったなんて、嬉しい驚き。
◇有沙美帆(アリーナ)
ドミトリーのことを心から愛し信じている母親的な女性。
温かみのある演技が心に残った。
◇麻愛めぐる(ミハイル)
ドミトリーの真の姿を知っている数少ない人間という印象。
決闘を止められなかったことへ後悔が滲み出る演技が良かった。
◇天勢いづる(イヴァン)
ドミトリーの友人役もうまかったが、ジプシーで登場したときの色っぽい目つきが
忘れられない…(笑)綺麗な人だ…。美少年キャラ♪
◇貴船尚(アレクセイ)
芝居達者とは思っていたが、歌までうまいとは知らなかった。
ソロが2曲ほどある活躍ぶり。これからの活躍が楽しみ。
◇神月茜(ニコライ皇太子)
なんというか、非常にインパクトのある役者さん。
歌のうまいのは知っていたが、突然ピンクの照明で怪しく歌い踊る皇太子に
目が点になった。あの場面はいったい??
◇涼花リサ(ナターリア)
美貌と財力を武器に上流社会に食い込もうとする、上昇志向で打算的な女性。
鼻持ちならない嫌味な女を上手く演じていた。
その他にも、麻樹ゆめみ・真波そら・沢音和希などが目を引いた。
ひじりんが、今回結構損な役回り。もう少し大きい役をつけてもいいのでは?
但し、歌にもう少しの努力を…。
一回だけでは、なかなか観きれない舞台だとは思うが、下級生にもそれぞれ場面が与えられ
とてもいい勉強になったのではないだろうか?
あれだけ下級生が多いのに、落ち着いた上流社会&帝政ロシアという
時代の雰囲気を出せたのは、雪組若手陣の頑張りと、専科の方々の力添えだと思う。
私が観たのは、初日から休演者続きだったのが、ようやく全員揃った日で
そこまでみんなで乗り切ってきたという自信と全員が揃った喜びとで、
舞台も一段とパワーアップしていたような気がする。
やる気のある舞台は観ていて楽しい。
そんなこともあり、とても好感の持てる舞台だった。
2004/02/19 (THU)
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