雪組雑感 「ディディエの独白」
私の名前は、ディディエ。
石油会社アラカト社の社長だ。
いや…、社長だった…と言った方が正確だろうか。
私の子供の頃の話をしよう。
父は炭鉱労働者だった。人は悪くなかったが酒癖がよくなかった。
母は働き者だったが、病弱だった。
兄弟も多く、長男だった私は、子供の頃から家計を助けるために色々な仕事をした。
学校の成績は良かったが、私の家の家計では大学など、とても無理だった。
だが、恩師の尽力で奨学金を受けられることになり、私は大学に進学した。
ソルボンヌを主席で卒業すると、私はアラカト社に入社した。
早く仕事を覚えて一人前になりたい。
そして、苦労をかけた母を幸せにしてやりたい…。ただその一心だった。
その頃すでに、父はアル中のために施設に入っており、
私が兄弟の面倒を見なければならなかった。
だが、やっと一人前の仕事をさせてもらえるようになり、
大きな取引を成功させたのもつかの間、
貧しいがために、有名な医者から診察を断られた母は、下町の小さな診療所で死んだ。
それからの私は、ただひたすら仕事に没頭した。
絶対に出世してやる…。そして私を見下していた連中を見返してやるのだ。
だんだんと頭角を表してきた私に、社長のシルヴァン氏も目をかけてくれるようになった。
私はシルヴァン氏の一人娘・パトリシアが好きだった。
美しい彼女は社交界の花形で、私のことなど眼中にないようだった。
だが、私はどうしてもパトリシアと結婚したかった。
そこで私は一計を案じた。
パトリシアには、ヴァンサンという腹違いの弟がいた。
正妻の子ではないヴァンサンは、社長夫人から嫌われ、
アラカト社にも関わらず、気ままに暮らしていたが、パトリシアとは仲が良かった。
私はヴァンサンに近づき、友人になることに成功した。
やがて私はシルヴァン氏のプライベートなパーティにも招待されるようになったが
ヴァンサンのおかげで、パトリシアとも親しくなることが出来た。
そして、私はパトリシアと結婚した。
確かに、社長の娘だということもあったが、私は彼女を心から愛していた。
だが、私の心の中には、シルヴァン氏の一族に対するコンプレックスがあった。
もしかしたら、パトリシアも心の奥底では私を蔑んでいるのかもしれない。
飄々としているように見えるヴァンサンだって腹の底ではどう思っているか…。
時々そんな妄想に囚われる事さえあった。
やがて、私はシルヴァン氏から経営を引き継ぎ、アラカト社の社長に就任した。
私はどうしても、シルヴァン氏やパトリシアに自分の実力を認めさせたかった。
その為に、私はますます仕事にのめり込んで行った。
業績を上げ、会社の規模を大きくすることに没頭した。
その為には、多少の危ない橋をわたることをもいとわなかった。
そんな私のやり方に、シルヴァン氏がいい顔をしていないことには気づいていたが、
私はシルヴァン氏の経営方針では、これからの時代は生き残れないと思った。
すべては、会社のため、パトリシアの為だと信じていた。
会長が、ヴァンサンの経営者としての資質を高く買っていて、
経営に参加させたがっていることは知っていた。
私はヴァンサンに負けたくなかった。
血の繋がりがなんだ。アラカト社の社長にふさわしいのは、この私だ…。
ヴァンサンがクラブのオーナーに納まったと聞いて、私は密かに安堵した。
そして、中東の石油の利権を一手に握ろうと計画した
ファデル将軍のクーデターが失敗に終わり、
私はアラカト社の社長を解任され、すべてを失った。
私が家の金庫に隠していた裏帳簿をヴァンサンに渡したのが
パトリシアだと知ったときの衝撃は、今でも忘れられない…。
私のやってきたことは、何だったのだろう…。
自分が良かれと信じて歩んできた道を否定され、私は深い挫折感を味わった。
だが、すべてが終わったと思った時、私の手を取ってくれたのはパトリシアだった…。
「やり直しましょう。もう一度はじめから…」
彼女はそう言って、私を抱き締めてくれた。
そうだ…、はじめはなにも持っていなかった。
あの頃は、なんて自由だったのだろう…。
権力や金を手にすればするほど、私はそれにがんじがらめになっていった。
もう一度もどろう、あの頃に。
今度は愛する人とともに……。
FIN
なんちゃって、ディディエの物語でした(笑)
なんかね、ディディエ@壮ちゃんを観ていたら、
こんな過去が浮かんできてしまいました。
いいところの坊ちゃんという感じもしますが、
成り上がりディディエ…という設定を考えてみました。
高慢で自信満々だけれど、その裏に見え隠れするコンプレックス…
というのが、結構ツボです。
クラブの場面での、ヴァンサンをちょっと小馬鹿にしたような態度が
ディディエの劣等感を表しているような気がして…。
だって、ヴァンサンのほうがお坊ちゃまっぽいんだもん(笑)
ヴァンサンは、ちょっとひねくれて悪ぶったようなところもあるけど、
やはり社長の息子であることには変わりないし、
ディディエは、表向きはさらりと涼しい顔をしているけれど、
実は血の滲むような努力の末(多少策略家ではあるけれど)
今の地位を手に入れた…という感じがします。
なんだか、勝手に妄想してしまい、申し訳ありません…。
しかし、宝塚の舞台からここまで妄想する私って…。
いや、だから今の私がいるともいえるんだけど(爆)
壮ちゃんファンの皆様、イメージ壊したらごめんなさい!
2003/11/27 (THU)
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