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映画「家族の肖像」 ヴィスコンティからのラヴ・レター


このお盆休みに、ヘルムート三昧をしていた友人Hお君(なぜか“お”が付く・笑)が、
すっかり映画『家族の肖像』に嵌った模様だ。
(いや、それとも、ヘルムートにかな?)

私はヘルムート・バーガーも大好きだが、ヴィスコンティ監督も大好きなので、
やはり二人がセットでいるのが一番嬉しい。
そう、おさあさっていうところかな?(違うだろう!)

だから、私のヴィスコンティ映画ベストは、
やはり『ルートヴィヒ/神々の黄昏』『家族の肖像』『地獄に墜ちた勇者ども』の三本に尽きる。

『ベニスに死す』も大好きだが、あれは別格かな。
トーマス・マンの原作があるし。

ヴィスコンティにとって、ヘルムート・バーガーという俳優は「悪と美と死の体現者」だと、
ある本に書いてあった。

確かに『地獄に墜ちた勇者ども』のマルチンは、母親の支配から逃れる為にナチスに身を投じ、
母親とその愛人を死に追いやるし、
権力を手に入れ、ナチの軍服に身を包んだ姿はまさしく“悪の花”という感じだった。

また『ルートヴィヒ』は、若く美しい王が自分の権力を放棄するという悪によって、
自らを没落させ、やがては死に至らしめる。
美しい王が醜く変貌していく様は残酷この上なく、
ヴィスコンティの一種サディスティックな視点を感じるほどだ。

そして『家族の肖像』のコンラッドは、高い教養と美貌を持ちながらも、
過激な学生運動の果てに、権力者の妻の愛人となって放蕩の限りを尽くし、
最後は殺される…という悲劇的末路を辿る。

ヘルムート・バーガーの持つ一種の危うい美しさや毒が、
ヴィスコンティを触発して、彼にこのようなキャラクターを与えたのだろうか…。

ヴィスコンティは、「ルートヴィヒ」を撮り終えた後、脳血栓の発作で倒れ、
その復帰作が『家族の肖像』である。
このときヴィスコンティは車椅子でメガホンを握っていたそうだ。

そして、この作品がヘルムートが出演した最後のヴィスコンティ作品になってしまった。

『家族の肖像』は、私にはまるでヴィスコンティからヘルムート・バーガーへの
ラブレターのように思える。

もちろん映画そのものはそんな甘い雰囲気の話ではなく、
他人を拒み孤独に暮らしていた老教授が、
他人を受け入れ虚構の家族を築こうとするが、
結局その崩壊によって、というよりコンラッドの死によって、
より深い孤独に陥っていく……という悲劇である。

ただ、教授がコンラッドに寄せる思いが、
ただの同性愛的なものではなく、父親のような深い情愛であり、
またコンラッドも「あなたの息子コンラッド」と自ら手紙に記すあたりが、
なんとなくヴィスコンティとヘルムートの精神的な繋がりの深さを
感じるのだ。

教授が、自分の部屋で傍若無人に振舞うコンラッドに怒りを覚えながらも、
そのチャーミングな魅力に思わず心を奪われるあたりや、
怪我をしたコンラッドを介抱する場面などは、一種のラブシーンにさえ思えてしまう。

ただ、決定的に違うのは、結局教授はコンラッドを見捨ててしまうが、
(そのために彼の死が教授を打ちのめすのだが)
ヴィスコンティは最後までヘルムート・バーガーを離さなかったことだろうか。

それが彼にとって、幸せだったかどうかはわからないが…。
いや、やっぱり幸せだったのかな…?
うん、きっとそうだったに違いないと思いたい…。

2003/08/20 (WED)

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